トーン信号はプッシュ信号とも呼ばれ、0から9までの10個の数字、AからDまでの4つのアルファベット、アスタリスクとシャープの2つの記号の合計16種類の符号(文字)を送信する際に用いる信号のことを指します。英語ではDual-Tone Multi-Frequency signalingと呼び、省略してDTMFと呼ばれることもあります。
トーン信号は8つの周波数帯域を高群と低群の2つのグループに分け、高群1つと低群1つを合成して16種類の符号を表現します。それぞれの群に属する周波数(単位はいずれもヘルツ)は、高群が1209・1336・1477・1633で、低群は697・770・852・941となっています。例えば、1209Hzと697Hzの信号を合成したものは「1」を、1633Hzと770Hzの合成信号は「B」をあらわします。トーン信号で用いられる周波数帯域は、合成信号も含めてすべて人間が聞き取ることができるため、日本では擬音で表現されることがしばしばあります。
DTMFは1950年代にアメリカで研究開発され、1960年代に押しボタン式の電話機で信号方式として採用されたことにより徐々に一般に浸透していきました。電話機の押しボタンの配置はDTMFマトリックスに準拠しており、国際電気通信連合(ITU)によって規格化されています。
現在、トーン信号は電話機で電話番号を送出するときだけでなく、単に数字や文字を入力する際にも用いられています。例えば、企業のコールセンターに問い合わせたとき、着信後に再生される音声ガイダンスに従って項目を選択すると該当する部署に電話をつなげることができたり、説明をもう一度聞き直すことができます。また、運送会社から再配達のお知らせが投函されていたとき、紙に書かれている専用ダイヤルにかけた後、音声の指示にしたがって電話番号や受付番号などを押せば再配達の依頼が完了し、しばらく待てば荷物を届けてくれます。